女王の帰還
思い……出したっ……。
前世で許嫁がいたわけでもなければ叶わぬ恋をした妹がいたわけでもないが、そんな言葉が頭によぎった。
ゴジラを見たのだ。
ゴジラといえば、近年ではシンゴジラが巷を賑わした。うろ…ぶち……あ……はい……何かのタイミングで……見るつもりでは……いますが……いえ……一旦おいておきましょう……。
シンゴジラ、とてもいい映画だった。無人在来線爆弾にテンションがぶち上がってウッキウキで劇場を後にした者は少なくないだろう。
そして今、再び巷を賑わすゴジラ映画が現れた。
ゴジラ キングオブモンスターズ。
我らの王が帰ってきたのだ。
これは年代の話になる。あるいは生育環境の話にもなろう。
VSシリーズを三つ子の魂に刻まれた者達、という層がある。かく言う私もその層だ。その層だったと、思い出させられた。
物心つくかつかないか、それくらいの年頃に見た作品は、原体験として人の心に根付きながら、時として記憶の彼方に埋もれることがある。
私にとってVSシリーズは、原体験として心の中に根付きながら、一ペタバイトはあるという記憶容量の中に完全に埋もれてしまっていた作品であった。
ゴジラのテーマを歌いながら狂ったように踊っていた園児であった、と、父母に聞かされたのはいつだったか。
キングオブモンスターズを見た私は、ふとそれを思い出した。
そして我らが女王の、あのシーンで、私は唐突にインファント語を思い出した。
(インファント語、という単語さえ忘れていたのに!)
頭の中に浮かんだ歌詞。途端に目頭が熱くなった。どうして私は忘れていたんだ。この美しい怪獣を、こんなにも崇敬していた事を。
イアイエハオラ ウハエカモスラヤ
王の帰還をたたえ、実質キンプラ(いや本当に。仁科カヅキはいたしヒロ様は戴冠した。信じてほしい)と噛み締めながら帰る道すがら、頭に蘇ったフレーズに、膝から崩れ落ちかけた。
そうだ、小さな手でパンフレットをめくり、何度も何度も歌詞を読み返した。私は彼らに歌を捧げた。毎日のように。あの美しい羽が、大好きだった。
空と海の間に あなたは生まれる
サワテキラナマカヒジャウ ワラクラナピリ
記憶に確かに刻まれた音楽が唐突に蘇り、あの頃の感情とともに、奔流のごとく流れてくる、その感覚を何と例えようか。
それらを思い出すことができたのは、キングオブモンスターズを見たからだ。ラドンもそうだそうだと言っている。
VSシリーズが原体験として根付いている人間は、キングオブモンスターズを見に行くといい。見たような見てないような?という人も。
もしかして私のように、いつか遠い昔に抱いた、懐かしい気持ちを、美しい思い出を、不意につかむ事ができるかもしれないから。
完全に改宗した狂信者の手記じゃない?これ。